今は、あたしと同じ19才。
その子のコトを近所のおばさんは『可哀相な子』と口々に言っていた。
でも彼女はずっと笑顔でいた。
ううん。あたしは笑顔の彼女しか見なかった。
その子はすごく幸せそうに笑ってた。
毎日、毎日。
あたしは隣でアイスを食べながら、一緒に笑顔の空気の中にいた。
その子には弟が一人いた。
『あたし、お姉ちゃんなんだ』って嬉しそうに笑った彼女の顔を、
あたしは最近、思い出せないでいる。
マリちゃんにお父さんはいない。
あたしと同じで。
だけど、そんなこと良くある事だから、
あたしもマリちゃんも、気にしたコトは1度もなかった。
あたしとマリちゃんが一緒にいた時間は小学校2年生から中学2年生の6年間。
たかだか6年間ぽっちで、あたしは彼女の全てを解った気でいた。
彼女とあたしは良く似ていたと思う。
『辛いときには人一倍笑え』ってこと。
あたしは彼女に教わった。
マリちゃんは家に帰るのがキライだった。
夜はキライだった。
あたしも、嫌いだったけど、
きっとマリちゃんはもっとキライだった。
最近になって気付いたこと。
彼女は笑顔の間ずっと、
ずっと泣いてたんだって。
苦しい気持ちを見抜かれるのが怖くて、
自分の周りに起こる全ての事態を見抜かれるのが怖くて。
彼女のママは若い。
あたしのママも若いけど。
心が若すぎた。
それゆえに、良く家に居なかった。
大人はずるいなって思う子供の気持ちを、
大人はすぐに忘れる。
あたしも、いつか忘れるのかな。
マリちゃん家は広くて、
多分すごくお金持ちで、
だけどお金でマリちゃんの心の穴と、
家の広さは埋らない。
誰かがいないと、全然埋らない。
あたしは彼女の家に、毎日チャイムを鳴らしに行った。
あたしは毎日『家に入る?』の言葉に首を縦に振らずに、
彼女を外へ連れ出した。
雨が急に降って来た日があった。
あたしは仕方なく、マリちゃんの言葉に頷いて彼女の家に行った。
あたしといる時間くらい、広いぽっかり冷たい部屋の広いベットで泣く気持ち、
忘れてほしくて外で遊んでた。
そういえばそれまで一度も、あたしはマリちゃんの弟の顔を見たことがなかった。
マリちゃんは近くにいないパパに似ているといわれるのが嫌。
ママにそっくりな弟が羨ましい。
あたしはマリちゃんの笑顔が好き。
弟の顔を見たとき驚いたのは、
笑顔がなかったこと。
冷たい目をした、寂しい顔。
家はやっぱりびしょびしょのあたしが乾いて見えるほど広くて、
だけどいくら電気を沢山つけてもまだまだ暗いくらい広くて。
一人で寝るのには広すぎるくらいベットも広くて。
全身を鏡で写せば小さなあたしがもっと小さくみえるくらい、
それくらい鏡も大きかった。
ママが帰って来ないのはやっぱり心が埋らないから。
きゅうきゅうな位がきっと丁度いいの。
人の心は。
マリちゃんはまた笑顔であたしを部屋に迎えた。
あたしは大きなベットが小さく思えるくらい、
沢山沢山話した。
マリちゃんも笑顔で聞いてた。
やっぱり大きな部屋は寂しいから、
あたしは毎日マリちゃんの部屋へ行っては、
写真やぬいぐるみを飾った。
時々、思い出すのは、
あたしは彼女をもっと寂しくさせてたんじゃないかってこと。
だけど、マリちゃんはもういないから、
あたしはごめんもありがとうも、
空にしかいえない。
毎日6時過ぎに言う『また明日ね、おやすみ』の言葉も、
今は部屋から出たベランダでしか言えない。
ママも寂しかった。
だけど、マリちゃんもマリちゃんの弟も、
きっともっと寂しかった。
笑顔でいた分、
きっとずっとずっと寂しかった。
最後の刻も、
あたしは傍にいてあげられなかった。
あたしはマリちゃんとさよならした夜、
彼女のママに酷いこと言った。
ママの連れて来た新しいパパにも、同じように。
死ぬまで気付けないんなら一人にしなきゃいいんだ。
大人は大きいんだから、
心はきっと守れたはずなんだ。
泣くくらいなら、中途半端に手の届く位置で独りにさせちゃいけないんだ。
毎晩忘れそうな笑顔を思い出して、
今まで封印してた気持ちと言葉を、
今度は空に唄おうと思う。
彼女は消えてったあたしの分身。


